化鳥の詩歌詞

添加日期:2023-12-07 時長:03分58秒 歌手:寺原孝明

とても長い戦爭だったわ
私の家は田圃ニ反の水呑み百姓だったの
でも、父さんが出征したあとは
だれも田を耕す人がいなくなってしまった
母さんが心臓発作を起こして倒れて
田は荒れ放題になり
草はぼうぼうと生えていた
米びつの中はいつも空っぽだった
食べるものがなくて、盜みもしたわ
その頃、田を売らないか、という話があった
母さんは嫌だと言った
黒い鞄を持った借金取りが毎日やって來て
田を売ることをすすめたんだけど
母さんは半狂亂になって
父さんに申し訳がない
父さんが帰ってくるまでは田を手放すことなんてできないと言っていた
だけど、その母さんも、まもなく死んだわ
そして、田は人手に渡ることが決まり
わたしは他の町の親せきに引きとられることになった
わたしは、真夜中にそっと起き出して
売られてしまった夜の冬田に
死んだ母さんの真赤な櫛を埋めたわ
夜になると、埋めた真赤な櫛が唄をうたった
畑をかえせ
田をかえせ
櫛にからんだ黒髪の、十五の年のお祭りの、お面をかえせ
笛かえせ
かなしい私の顔かえせ
私は焼跡の女巡禮、うしろ指の夜逃げ女、泥まみれの淫売なのです
母さん、どうか生きかえって
もう一度あたしを妊娠して下さい
あたしはもう、やり直しができないのです
夢の中で、あたしは何度も田舎へ帰ってきたわ
そして帰ってくるたび、田を掘り起こした
すると、どこを掘っても真赤な櫛が出てきた
村中の田という田から、死んだ母さんの真赤な櫛
うらみの真赤な櫛、血で染めた真赤な櫛が
百も二百もぞくぞくと出てきた
そして、その櫛も口を揃えてあたしに言った
女なんかに生まれるんじゃなかった
人の母にはなるんじゃなかった
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